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前川喜平の「奇兵隊、前へ!」(その21)「義務教育費・交付税一体改革」を訴える!

       前川喜平〔(まえかわ・きへい)文部科学省初等中等教育企画課長〕

 義務教育費国庫負担金を、三位一体改革の補助金削減の対象にするのは間違っている。
 三位一体の改革は、(1)補助金・負担金、(2)交付税、(3)税源配分を一体の改革するところに意味があるとされている。然るに、交付税改革は一向に進んでおらず、交付税がどうなるか分からないまま、義務教育費国庫負担金の削減や廃止が俎上に載せられている。
 しかし、義務教育費国庫負担金がなくなったら、義務教育費の財源保障は交付税に頼らざるを得なくなる。その交付税がどうなるか不明のまま、義務教育費国庫負担金を削減・廃止に突き進んでしまっていいのだろうか?
 義務教育費国庫負担金は総務省などの策謀によって補助金・負担金削減のトップバッターにされてしまっているが、一方の交付税改革は平成16年度に前触れがあっただけで、その後は鳴りを潜めている。地方の反発によって補助金・負担金削減にブレーキがかかるのを恐れて、交付税改革の手を緩めているのだろう。平成18年度にも本格的な交付税削減はなさそうに思われる。しかし、平成19年度には交付税の大削減という津波が地方を席巻することになるだろう。
 しかし、このようなやりかたは国民を欺くものである。ことの本質を国民に知らせることをせず、密かにことを進め、ことが終わったときには後の祭りというようなやりかたは、民主主義に背くものだ。総務省は、交付税削減をいつどのような規模で行うつもりか、はっきりと国民に知らせるべきである。
 そして、義務教育費国庫負担金の在り方についての議論は、少なくとも交付税削減の議論と並行して行うべきである。なぜなら、義務教育費の「財源保障」と地方間の「財政調整」という、これら二つの制度の間には、相互補完的な密接な関係があるからである。

 義務教育の「財源保障」と地方間の「財政調整」との相互補完的な関係については、歴史に学ぶところが大きい。
 大正7年に制定された市町村義務教育費国庫負担法に基づいて、国は定額の国庫負担金を市町村に交付していたが、その額は次第に増額され、昭和5年の改正で義務教育教員給与費の半額に達した。このときの義務教育費国庫負担金は、法律で定められた総額を市町村の財政力に応じて配分するという方法をとっていた。当時市町村間の財政力格差を調整するための一般的な財政調整制度は存在しなかった。そのため、義務教育費国庫負担金は義務教育教員給与費の「財源保障」という機能だけでなく、市町村間の「財政調整」という機能も負っていたのである。しかし、義務教育費の名目で一般的な財政調整まで行うのは無理があった。市町村の側からは、「義務教育は国が市町村に義務づけた仕事なのだから、国がその全額を保障すべきだ」という主張が繰り返し行われていた。
 義務教育費の「財源保障」と市町村間の「財政調整」とをきちんと区別したのは、昭和15年の財政改革である。「義務教育費国庫負担法」が制定され、義務教育教員給与費は国と府県とが2分の1ずつ負担することとなり、市町村を義務教育教員給与費の重荷から解放した。当時府県は国の出先であったから、市町村から見れば「全額国庫負担」という究極の財源保障が完成したのである。一方これと同時に、市町村間の財政力格差を調整するための制度として「地方分与税制度」ができた。今の地方交付税の前身に当たる。
 昭和15年の改革は、義務教育という確実な財源保障が必要な公的サービスについては全額を特定財源である国庫負担金で保障し、市町村間の財政力の格差を埋めるためには一般財源による財政調整制度を設けるというもので、「財源保障」と「財政調整」の役割分担をはっきりさせた、極めて合理性の高い改革であったと評価できる。
 戦後、昭和24年のシャウプ勧告に基づいて、昭和25年に義務教育費国庫負担制度が廃止され、「地方財政平衡交付金制度」に吸収された。このとき廃止された補助金・負担金の総額305億円のうち、義務教育費国庫負担金は247億円で全体の81%を占めていた。地方財政平衡交付金は一般財源による「財政調整」の制度でありながら、義務教育のような義務的事業に対する「財源保障」の任務も併せ持っていた。
 地方財政平衡交付金という一般財源による義務教育費の財源保障は短時日のうちにその限界を露呈し、教育条件の格差や地方財政の硬直化を招いた。このような事態にあって、教育界や知事会からの要望を受け、昭和28年、義務教育費国庫負担制度が改めて導入されたのである。地方交付税制度はその翌年昭和29年にできている。こうして、国庫負担制度による義務教育費の「財源保障」と交付税制度による地方間の「財政調整」との合理的な役割分担が復活したのである。

 では三位一体の改革では、交付税改革はどのような方向性を持っているのだろう。
 三位一体の改革を打ち出した平成14年6月21日の「基本方針2002」では、交付税の改革について、次のように記述されていた。
「9割以上の自治体が交付団体になっている現状を大胆に是正していく必要がある。このため、この改革の中で、交付税の財源保障機能全般について見直し、『改革と展望』の期間中(筆者注、平成18年度までのこと)に縮小していく
「現在、地方においては約一四兆円の財源不足が生じている。歳出削減や地方税の充実など様々な努力により、できるだけ早期にこれを解消し、その後は、交付税による財源保障への依存体質から脱却し、真の地方財政の自立を目指す
 また平成15年6月27日の「基本方針2003」は、次のように述べていた。
「地方交付税については、『改革と展望』の期間中に、交付税の財源保障機能全般を見直して縮小し、交付税総額を抑制する。こうした取り組み等により、交付税への依存体質からの脱却を目指す」(下線は筆者)
 つまり、交付税改革とは、交付税の財源保障機能を縮小し、総額を抑制し、交付税への依存体質から脱却することなのである。
 三位一体改革の結果、交付税の財源保障機能が縮小するのだとすると、その中で一体どうやって義務教育教職員給与費5兆円の財源が保障できるのだろう?義務教育費の一般財源化と交付税の財源保障機能の縮小とは、相反する方向を向いているのである。

 地方交付税はこれまで「財源保障機能」と「財政調整機能」の両方を持ってきた。義務教育や生活保護については、財源保障制度として国庫負担金制度がある。こうした分野では、地方交付税は国庫負担されない部分の財源を裏から保障している。役所ではそれを「裏負担」と呼んでいる。この「裏負担」分は、国庫負担金に必然的に伴うことになるので、実は一般財源である交付税を「特定財源化」していることになるのである。一方、警察や消防に関する財源保障はその全体を地方交付税が担っているが、これも一定額をそれらの分野に振り向けざるを得ないことから、一般財源を「特定財源化」して財源保障しているのだといえる。
 しかし、交付税批判が集中している問題点は、このような義務的事業に対する財源保障にとどまらず、あらゆる財政需要を算入して財源保障の対象としている点である。その中には各自治体が過去に負った借金の返済資金も含まれている。このような過剰な財源保障が、地方財政の自立を妨げているというのが批判の焦点である。
 また、このような過剰な財源保障が行われている結果、財政力の逆転現象も生じている。東京都と島根県とでは、住民1人あたりの地方税収入には2対1ほどの格差があるが、交付税の交付後は、逆に1対2ほどの差で島根県の方が多くなる。「交付税は貧しい自治体を豊かな自治体以上に豊かにしている」(赤井伸郎ほか「地方交付税の経済学」2003年有斐閣)といわれる現象が起こっているのである。
 赤井伸郎、佐藤主光、山下耕治、土居丈朗といった30歳代新進気鋭の経済学者たちは、このような交付税の在り方に対して鋭い批判を加えている。彼らが主張する一つの改革策は、義務教育、警察、消防などのナショナルミニマムを確保するための「基礎サービス」については、財源保障機能を交付税から切り離し、従来の国庫負担金と統合した新たな全額負担の交付金(又はブロック補助金)を設けるというものだ。こうすることにより、交付税から財源保障機能を切り離し、交付税を財政調整制度として合理化していくことができるようになる。(土居丈朗「三位一体改革ここが問題だ」2004年東洋経済新報社)
 このような交付税改革の方向は、期せずして中央教育審議会答申(10月26日)の「本来は、義務教育費の全額保障のために、必要な経費の全額を国庫負担とすることが望ましい」という主張と軌を一にしている。
 特定財源による義務教育費の全額国庫負担制度と一般財源による地方間の財政調整制度という組合せは、昭和15年の財政改革とも共通するものである。

 三位一体の改革が交付税の財源保障機能の縮小を目指すのであれば、当然にその場合義務教育費の財源保障をどうするのかが問われなければならない。義務教育費の一般財源化は、交付税改革の方向性に背馳するものだというべきである。縮小する財源保障機能の中で、どうやって義務教育費を保障しようというのだろうか。義務教育などの「基礎サービス」に対しては全額国庫の特定財源により「財源保障」を行い、地方間の財政力格差については一般財源により「財政調整」を行うという2種類の制度の組合せこそ、検討されるべき課題なのではないだろうか。
 義務教育費国庫負担制度の存廃を交付税改革と切り離して論じるのは間違いである。義務教育費と交付税とは一体で改革しなければならないと主張するゆえんである。(つづく)


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