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前川喜平の「奇兵隊、前へ!」(その20)「無理数」が通れば道理が引っ込む

 義務教育費国庫負担金を、三位一体改革の補助金削減の対象にするのは間違っている。
 義務教育費の削減問題については、「数字が先行し、理屈が追いかける」という事態になっている。こんな道理の通らない削減を行ってよいのだろうか。

 昨年6月4日の閣議決定「基本方針2004」。
 税源移譲の目標額について「概ね3兆円を目指す」とされたが、どのような経費をどれだけ税源移譲に回すのかは、何も決められていなかった。このときから、理屈の無い数字が先行するようになった。
 昨年8月18・19日に新潟で行われた知事会議。
 平成18年度までに3兆2千億円の補助金・負担金の削減を求めるという原案には、義務教育費の中学校分として8500億円の削減が含まれていた。この案には多くの知事から強い異論が出されたが、最後は「義務教育費を入れなければ3兆円に達しない」という数字合わせの論理に押し切られてしまった。「なぜ中学校分なのか」という問いには「中・高の連携を促進するため」などという全く理屈にならない理屈がつけられているだけ。「無理が通れば道理が引っ込む」とはこのことである。数学では、分数で表せない数を「無理数」というが、この8500億という数字は、理屈の無い数という意味で「無理数」だ。
 昨年11月26日の政府・与党合意。
 平成15年度予算以降各省から絞り出させた補助金・負担金削減を積み上げると1兆5千億円余りになった。その中には、平成15・16年度に行った義務教育費の削減4500億円も含まれていたし、「地方案」にはなかった国民健康保険負担金の削減約7千億円が含まれていた。しかし、それでも3兆円にはまだほど遠い。そこで、文部科学省や与党文教関係議員の反対を押し切って、平成18年度までの全体像の中に、「暫定」として義務教育費国庫負担金8500億円の削減を計上した。この暫定8500億という数字には、知事会のような「中学校分」というこじつけの説明すらもない。何の理屈も無い裸の数字なのである。その上で、義務教育費については「平成17年秋までに中央教育審議会において結論を得る」とした。こうして、無理矢理2兆4千億円まで数字を積み上げたのだ。そのうち義務教育費は4500億円+8500億円=1兆3千億円。全体の54%に相当する。
 今年10月26日の中央教育審議会答申。
 「国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で、現行の負担率2分の1の国庫負担制度は優れた保障方法であり、今後もを維持されるべきである」とし、中学校分を削減するという地方案は「合理性がなく、適当ではない」と退けた。この答申からは、どこをどう読んでも8500億円削減という結論は導けない。義務教育の教職員給与費は5兆円かかっており、その2分の1は必ず2兆5千億円になる。8500億円の削減は認めないというのが中教審答申だと考えざるを得ない。そしてそれが、政府・与党合意が求めた「結論」であるはずである。文部科学省はこの答申をどこまでも尊重しなければならない。
 そして今。文部科学省の外側では、8500億というもともと理屈の無い数字に、なんとか理屈をつけようとする虚しい試みが続いている。
 10月27日には、朝日新聞(夕刊)が「義務教育費国庫負担、中学分廃止へ」という記事を載せた。「中学校分削減は合理性がない」と退けた中教審答申に真っ向から反する内容だ。「政府関係者」の話によるそうだが、文部科学省は全く関知していない。この記事は、文部科学省が自発的に削減案を差し出すよう仕向けようとする何者かが流した情報に基づくものだと思う。「文部科学省は中学校分廃止という最悪に事態を避けたいのだろう。それなら別の案を持ってこい」…そういうメッセージが込められているのだろう。しかし、そんな別の案などどこにもない。
 11月5日には、日本経済新聞が「義務教育費国庫負担率、3分の1に下げで調整、政府・与党、補助金8500億円削減」という記事を載せた。これも「負担率2分の1の現行制度を維持すべき」とした中教審答申に真っ向から反するものだ。この案は教育関係者も望んでいないし、地方6団体も拒否する姿勢をすでに示している。ここでいう「政府」には文部科学省は入っていない。中教審答申を尊重する以上、負担率引き下げという選択肢をとるわけにはいかないのだ。
 11月18日の日本経済新聞(夕刊)は「公立高関連費地方税に、三位一体改革で自民調査会案」という記事を載せた。自民党文教制度調査会・文部科学部会が、義務教育費国庫負担金8500億円削減の代替案として地方交付税から高等学校関係部分を地方税に税源移譲する案をまとめたという内容だ。地方交付税を削減して地方税に税源移譲するという改革策は、地方分権推進委員会、経済財政諮問会議、中央教育審議会、それぞれの場で検討された経緯のあるものだ。8500億円という数字にとらわれる必要はないと思うが、検討に値する案ではないだろうか。
 さらに11月20日の東京新聞には「義務教育費、国庫負担減へ新制度、政府検討、8500億円税源移譲図る」という記事が出た。「義務教育費国庫負担制度について、8500億円の税源移譲を実現するため、政府が現行2兆5000億円の負担金を見直し、1兆7000億円に縮小する新たな国庫負担制度の創設を検討」というものだ。また、国庫負担の対象経費を、教職員給与ではなく、(1)義務教育の無償制、(2)教員の質、(3)国家的教育課題への対応、に変更し、公立高校の授業料などを参考に1兆7000億円と算定するという。この案は、これまでのどの案にもまして理念も原則もない支離滅裂な案である。単に8500億円の削減を行うためにつじつま合わせをしたものとしか思えない。8500億という「無理数」の無理さ加減も、ここに極まったというべきである。
 この案では、国庫負担金が給与費の総額保障機能を失い、義務教育費の総額削減と教育水準の低下は避けられなくなる。現在、総額8兆7000億円かかっている義務教育費が1兆7000億円のレベルまで止めどなく縮減していくことになるだろう。もはや、無理数ですらなく「虚数」の域に達している論外の案である。
 結局いろいろな案はあっても、8500億という「無理数」に理屈をつけることはできないのである。この無理数が通れば道理は引っ込むしかないのだ。こんな「無理数」を押し通してでも、義務教育費8500億円の削減をやりたがっているのは、一体誰なのか。
 それは総務省だ。自ら招いた地方交付税の破綻を糊塗するためである。


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