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前川喜平の「奇兵隊、前へ!」(その9)「自由にしてくれ。それから縛ってくれ」?

 「自由にしてくれ。それから縛ってくれ」そんな矛盾したことを求める人がいるだろうか?
 中教審義務教育特別部会の審議の中で、多数の委員が心配したのは、義務教育費国庫負担金を一般財源化すれば「減らす自由」ができるのだから、義務教育に財源が回らなくなり、教育の質が保てなくなるのではないかということだった。
 この点について、5月25日に特別部会に提出された6団体資料では、「教育費水準の適正支出の担保」と題して次のように主張していた。
○ 地域住民の最大関心事は子どもの教育で、地方行政において最も優先されているのは教育現に地方は教育費を国の標準以上に支出
○ 一般財源化されても教育費の適正支出を担保できる。
・ 「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」に基づき、文部科学大臣が都道府県及び教育委員会を指導することができる。
・ 「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」に基づき、文部科学大臣が、学級編成基準又は教職員の総数について、報告を求め、指導をすることができる。
  必要があれば「地方交付税法」に基づき、是正勧告をした上で、文部科学大臣の請求を受けた総務大臣が、地方交付税の全部又は一部を変換させる規定が存在。
・ 現行の法律による担保が不十分であれば、法律改正も可能。
 石井正弘委員(岡山県知事)は、この資料を忠実になぞりながら説明した。
「住民の最大の関心事は子どもの教育であります。最も我々地方行政において優先されているのは教育であるということでございます」(5月25日)
 住民の最大関心事は教育であり、地方行政で優先されているということを、ア・プリオリに前提としている。
「今現在、地方教育行政の組織及び運営に関する法律という法律がございますし、また、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律、この法律がございます。これによって一般財源化された後の教育費の適正支出は担保できると、このように考えているところでございます。文部科学大臣が報告を求め、指導するということが、この法律の規定によって可能でございますし、もしも必要がございますれば、地方交付税等によって是正勧告、あるいは文部科学大臣の請求を受けた総務大臣が地方交付税の全部または一部を返還させるという規定が存在しているところでございます。
 そして、現行の法律によって担保が不十分であるというお考えであれば、法律改正をされるということも可能であると。もちろん地方分権にはご配慮していただく必要がございますけれども、法律改正は可能であると考えております」(同上)
 適正な支出を担保するためには、現行の法律をフル動員して国が地方を縛ればよい、それで足りなければ法律改正すればよいという論旨だ。
 増田昌三委員(高松市長)も同様の発言をした。
「国が標準法できちんと必要な基準を定め、税源移譲と地方交付税で確実な財源措置をされれば、懸念されるようなことはないと確信します。それでもなお懸念される向きがあれば、国は義務標準法等の改正等について検討し、さらなる措置を講じることができるわけです。地方の改革案においても、都道府県において教育費の水準に著しい格差が生ずることのないよう、法令に明記するなどの措置について検討すべき旨の提案もいたしております」(同上)
 義務教育費の適正支出を担保するための法律改正については、石井委員はこう主張した。
「地方公共団体においては、例えば、40人学級を最低のものとして絶対守りなさいと。守らなかったら、国のほうから強い指導監督等が行われますという、そういう意味で、標準法というよりは(中略)最低は国が基準を設けるということでございますれば、仮に基準法というふうに法律を改めていただいてもいいわけですが、その中で給与の計算をいたします。その最低の保障は、決まった単価、決まった職員の人数、これを交付税の基準財政需要額に100%算入しますので、100%措置される」(6月1日)
「例えば、基準法に、改めて強く指導されると、基準財政需要額に入れたものは100%措置する、そういう法令上のことを明確にされてやられれば、ちゃんと地方公共団体は措置しますよと、そのことを申し上げているんです。」(同上)
 国庫負担金を一般財源化した際に、都道府県の義務教育への適正支出を担保するため、文部科学省の監督権限を強める法律改正をしてもいいと言っているのだ。この主張に対しては反対や疑問の声が相次いだ。
 渡久山長輝委員(全国退職教職員生きがい支援協会理事長)「石井知事も、流用されては困るのなら、基準法を作れと言われますね。そうすると、負担金だって何も変わらないですよね」(同上)
 小川正人委員(東京大学教授)「石井委員のお話を聞くと、やはりよくわからないのですよ。もうストレートに、一般財源化して自由に使いたいから標準法も廃止しろという主張であれば、6団体の主張は非常に私たちにとってもわかりやすいのですよ。でも、一般財源化して、しかし標準法は必要だという話は、私にとっては非常に納得いきません。(中略)国がやはりきちんとした責任を持って、全国的な水準の維持と地方間格差を是正する、そのためにナショナルミニマムとしての基準を設定することは重要だというふうに言っておりますよね。もしもそのような基準があれば、一般財源化したって、それは何でも自由に使えるお金ではないはずなんですよ。ですから、もし本当に自由に使いたいのであれば、負担金制度廃止とともに、一般財源化したのであれば標準法も廃止しろというふうなことを言わないのかというのは、私はむしろ不思議なので問いたいのですよ」(6月18日)
「一般財源化された場合、水準維持不安があるというなら、文科省は規制をさらに強化してもいいんじゃないか、やりなさいという(中略)そうした考え方は、負担金制度廃止によって教育行政の自由拡大を主張している方々の主張としては、ちょっと本末転倒というか、アイロニカルな主張ではないかと感じます」(6月1日)
「地方6団体委員が主張される一般財源化とナショナルミニマムの規制強化基準規制の強化という提案では、むしろかえって今よりも国の統制が強まるというような危惧も感じられますし、その他のいろんなことを考えますと、今の標準法と総額裁量制というふうな形の義務負担金制度のほうが、地方の教育水準の確実な確保と自由度の拡大という点でベターだというふうに思います」(同上)
 土屋正忠委員(当時武蔵野市長)「地方の一般財源を特定の法律で縛るのはけしからぬというのが、地方自治の理屈の延長のはずなんです。(中略)今まで地方自治の関係者の中には、分野を特定して国家が義務づけるのなら、その財源は保障してくださいよと。地方の一般財源を標準法のように法律だけで縛るというのは、地方自治の本旨からいって間違いだ、こういうふうな物の考え方に立っているのです。(中略)我々はそういう、一般財源を特定の法律で縛るのはよくないというのが地方自治論の原点だと思っていたのです。ところが、義務教育に関してだけいえば、標準法がある、標準法で義務づけているのだから一般財源化してもいいというのは、どうも論理がおかしい」(6月18日)
「大体、金も出さないのに口だけ出されたら、そんなのは地方自治じゃないですから。わかりやすく言えば。だから、金を出さないなら口も出してくれるなと、これが地方自治の原点じゃないですか。わかりやすく言えば」(同上)
「従来の地方自治の概念からは、仮に標準法がある程度の担保するものであったとしても、わかりやすく言えば、文科省が口を出すけれども金は出さない、こういう仕組みは、地方自治にとってはあってはならないものだ。つまり、法律でもって口を出すときには、必ず財政的にも担保する、これが原則だ。むしろ、一般財源化するということは、何でも自由に使えるということが前提で、地方財源ですから、地方財源になったものを、国があれこれ言うこと自体がおかしい。(中略)こういう地方自治の原則に反するような主張について、地方のお立場でどういうふうにお考えになっているのか」(同上)
「基本的な教育水準にかかわるような人件費は地方に任せて、地方の見識だけに委ねていいのかどうか。そうではなくて、ナショナルスタンダードとしてある程度やるべきではないかという具体的な線引きが、今ここで問われていることではないか、このように考えます。私の意見は、ある程度ナショナルスタンダードをきちっと保証した方がいい、こういうことであります」(同上)
 井上孝美委員(当時放送大学学園理事長)「現在、義務教育国庫負担金は地方財政法第10条で定められている国庫負担金として(中略)地方が法令に基づいて実施しなければならない事務であって、国が進んで経費を負担する必要があるものとされているわけで、このため国の予算編成では、最優先でその必要額をきちんと確保して、それから他の政策予算を考えることになっている」「もし、義務標準法を基準法として強化するのであれば、義務教育費国庫負担金を地方財政法の国庫負担金から外して、一般財源化するのではなくて、むしろ、今まで以上に国が強い財源保障をすべきであるということになると考えられる」「義務教育国庫負担金を地方財政法の国庫負担金から外して一般財源化することと、義務標準法を基準法として強化することとは矛盾するということをまず指摘しておきたい」(6月30日)
 片山善博委員(鳥取県知事)は、法律で縛るのなら一般財源化のメリットはないと指摘した。
「一般財源化というときには、法規制も含めてフリーにしなさいというのが本来のやり方なんです。今回のは、ちょっと変なのは、一般財源化しなさい、でも、法律で縛ってくださいというのは、実はちょっとイレギュラーなんですね。だったら、何のメリットがあるんでしょうか。一般財源化というのは、とにかく減らす自由を我に与えよということがメリットなんですけれど、減らす自由は要りません、一般財源化だけするというのは、もうメリットの殆どはないわけですね」
 赤田英博委員(日本PTA全国協議会会長)は石井委員に質問した(6月1日)。
「石井委員さんのほうからは、一般財源化しても、ひもつきの一般財源化してくださいと、要するに、減らす自由はなくてもいいよということでしたが、であれば、これは、減らす自由がなくてもいい一般財源化をするという解釈でよろしいのかどうか」「であれば、今の義務教育国庫負担制度、法律に守られた制度が一番いいと私は思いますけれども、その制度ではなぜだめなのか」
 石井委員から納得できる回答が得られなかった赤田委員は、さらに質問した。
「自由度が増さない、全然自由度のない一般財源化でもいいよとおっしゃっていますけれども、自由度があるということの解釈を明確に説明していただきたい」
 石井委員「自由度は飛躍的に高まるんです」
 赤田委員「その自由度って何の自由度かとお尋ねしています」
 赤田委員はさらに質問を繰り返したが、結局納得できる答えは返ってこなかった。
 「自由に使える財源にしてほしい。しかし、国の基準で縛ってくれていい」こういう矛盾した提案が、なぜ知事会から出てきたのか。片山委員が種明かしをした。
「知事会でここはすんなり決まったわけではないのです。猛反対があったわけです。(中略)一般財源化したらばらつきができるのじゃないか、減らすところができるのじゃないか、勝手にやるのじゃないか、そういう懸念が出まして、いや、そうはさせないようにするから心配ないという反論が、多数派からあって、そういうことを踏まえてこういう案になっているわけです」
「本来地方団体の基本的なスタンスというのは、一般財源化というときには、財源を単に移すだけではなくて、それに伴う各種の規制も全部廃止してください、自由にさせてくださいというのが基本的な考え方なんですね。だけれども、それでいくと義務教育については余りにも心配だという、東京都の石原知事は特にそうだったのですけれども、国家がやはり責任を持つべきだ、地方の自由になったらばらつきが出て困る、こういう話があったので、そこを調整するために、こういう規定を置くから、こういう条件を付するからどうだろうかというような議論に進んでいった。その結果がこういうことなんですね。だから、一般財源化に対しそれほど強い懸念と反対があったということはぜひご認識をいただきたい。そういうある種の妥協といいますか、知事会としては必ずしも論理的でない文案になっているということなんですね」(6月18日)
 6団体側の「一般財源化・監督強化合体論」つまり「自由にしてくれ。それから縛ってくれ」という主張は、こうして理屈の上からも、経緯に照らしても合理性を持たないことが明らかにされたのである。(つづく)
前川喜平〔(まえかわ・きへい)文部科学省初等中等教育企画課長〕


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