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前川喜平の「奇兵隊、前へ!」(その6)義務教育費で割れた知事会

 義務教育費国庫負担金を、三位一体改革の補助金削減の対象にするのは間違っている。
 総務省は「義務教育費国庫負担金の廃止は地方の総意」だと主張している。本当にそうなのだろうか。

 基本方針2004は、国庫補助負担金改革案のとりまとめを地方に要請した。これを受けて知事会は何度か会合を持った。全体討議をしたのは地方6団体の中で知事会だけである。会合のたびに、義務教育費国庫負担金の削減については、多くの知事から強い異論が表明された。
 知事会の最終的な意思決定は、平成16年8月18日・19日に新潟で開かれた知事会議において行われた。
 この会議は、義務教育費国庫負担金の取扱いをめぐって激しく紛糾し、1日目は会議日程を大きく超過して深夜に及んだ。原案の3.2兆円の削減リストには、義務教育費国庫負担金を最終的に全廃することを前提として、中学校分8,500億円が含まれていたが、義務教育費をリストに加えるべきではないという知事からは、次のような発言があった。
 広瀬大分県知事「今、国が基準を決めて、そしてお金を手当もして、そして義務教育を守ってるという制度がある。(中略)スタンダードだけ決めて、あとは財源は地方に任せればいいじゃないかというのは、数字合わせの議論以外の何ものでもないと思います」
 片山鳥取県知事「現行の義務教育費国庫負担制度にどういう問題がありますかということがまず吟味されなければいけないと思うんです」「どうも何か教育の他の部分に対する不満が負担金制度にわけのわからないままもってこられて悪者にされているのではないかなと思います」「税源移譲の対象にするということは、(中略)税プラス交付税になるわけです。そうすると、これで本当に義務教育の財源がまかなっていけるのかどうかという吟味が必要です」「本当に大丈夫でしょうか。今、交付税は瀕死の重傷です。死に至る病になっています。結局、税プラス交付税でみるといっても、その交付税の部分というのは財源対策債がふえるだけなんです」「確かに今の義務教育費国庫負担制度はいろいろ問題がありますけれども、しかし、どっちがどうかといわれたら、私は財源対策債よりは今の国庫負担金の方がいいと思います」
 石原東京都知事「義務教育の国庫負担というものを撤廃して一般財源化することで、私は結果として我々が念願している本当の地方分権に逆行することになるんじゃないですか」「これは片山君(筆者注、片山前総務大臣のこと)がやったんでしょう。とにかく一番イージーな一番弱い文部科学省にターゲットがいってこういうものが出てきている」
 野呂三重県知事「子どもはどこの地域に生まれたかということについては自ら選択できないわけであります。(中略)従って、教育についてはやはり国が一定の水準をしっかり確保する」「それぞれの地域で具体的な工夫を生かせる制度であるということが大事でありますから、そういう運用の仕方に持っていくということと、財源そのものは、国が責任を持ち教育の水準を確保していく、そのことが子どもが主役の教育をしっかり守っていくことになると思っております」
 國松滋賀県知事「地方の自主性を高めるために税源移譲してほしいというのは今回の地方側の一番大事な点だと思うんです。(中略)その財源が自由度が発揮できるもので移譲されなければ意味がないというのがまず一つ」「もう一つは、(中略)人づくりであり国づくりであるという極めて根幹に関わる行政サービスである。その義務教育に関してであるということ」「財源移譲という中で、優先順位からいって、ここは数合わせになってしまうということだけは、絶対に避けるべきだと思います」
 山本山梨県知事「国民の権利・義務に関わる憲法上の問題だということであり、これを一般財源化して地方の自由裁量権を与えるといっても、格差が生じるということは、まさにこの教育の機会均等、教育水準の維持向上を保障するという義務教育制度とは反するものではないかと思います」
 金子長崎県知事「今の交付税制度が、ある知事によればもう破綻しているに等しいという話がなされているわけなんです。そういう中で本当に財源確保というのを確実にできる保証があるのかどうか。そういうのがない前提の中で、せっかく国で半額については負担するということを決めている制度があるならば、私はそれをやはり堅持していくべきだと思います」
 田中長野県知事「省庁の中で(これはあえて私は激励の意味で言いますが)文部科学省という最も声が小さいところ、小さいところのもので処理をしようということは、これこそが弱いものいじめでありまして、こうしたことを知事会も行う、政府と加担して行うならば、まさしく日本の社会のいじめというものはなくなっていかない」「国民のクオリティーオブライフを維持するということで生活保護、そして義務教育というものはその財源をきちんと国家が保障すべきであるという考えに与するものであります」

 なぜ中学校分だけを一般財源化するのかとの藤田広島県知事からの質問に対し、原案作成の責任者である石井岡山県知事(地方制度調査委員会委員長)は次のように説明した。
「ご承知のとおり、中学校は学校教育法で見ますと高等学校と並びまして中等教育ということでこの両者が位置づけられているということでございます。皆さん方も中高一貫校というようなことでそれぞれお取り組みをされておられるところも多いのではないかと思いますけれども、中学校と高等学校が一体となったそういう中等教育の充実の必要性というものが、今、我々がそういう必要性を感じているということであります。
 従って、中学校教育が高等学校と連携をしていくということが大変重要でありまして、そういった中で一般財源化を図っていく中で、それぞれ地方の創意工夫を凝らした自前の教育行政あるいは学校運営を図っていくということによって、地方の実情とか地方の個性に応じましたそういうきめ細かい中等教育、全体としての中等教育、これが実践できるとこのように考えました。いろいろほかにも理由はございますけれども、一番の理由はそういうことで中学校ということで今回整理をさせていただいております」
 この石井知事の発言は、要するに中・高の連携が重要だから中学校分を一般財源化するというのだ。これは説明になっているだろうか。そもそも学校教育法上、中学校は「中等普通教育」を行う学校、高等学校は「高等普通教育」と「専門教育」を行う学校と規定されている。公立中学校は市町村が設置義務に基づいて設置しているが、公立高等学校の多くは都道府県が設置している。しかも、高等学校については設置義務がない。中・高の連携が重要であるのと同様に、幼・小、小・中、高・大の連携も重要だ。中学校分の義務教育費一般財源化の「一番の理由」がこんなことで、「いろいろほかにも理由」があるとは思えない。

 結局、知事会において、削減リストの原案は賛成多数で決定されたが、義務教育費国庫負担金の削減について異論が続出した経緯を反映させるため、13人の知事の反対論や慎重論を「付記意見」としてつけることになった。例えば、片山鳥取県知事は簡潔に次のような意見を付記している。
「義務教育費国庫負担金の削減には反対。
 国庫補助負担金等に関する改革案を政府に提出することについては賛成であるが、税源移譲額が3兆円に達しないのであれば、義務教育費国庫負担金については補助金削減リストから外すべきである」
 片山知事は「義務教育費に手をつけなければ3兆円は達成できない」という理屈にとらわれるなと言っているのだ。しかし、3兆円の蟻地獄は厳として存在し続けた。
 こうして、知事会で義務教育費を削減リストに入れるか否かでもめにもめた末に、13人の異論を付記して採択された「改革案」は、平成16年8月24日、地方6団体の案として政府に提出された。市長町村の意見は本当に反映されていたのか疑問を残したまま、以後この案は「地方案」と呼ばれ、総務省はこれが「地方の総意」だと主張している。(つづく)
前川喜平〔(まえかわ・きへい)文部科学省初等中等教育企画課長〕


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