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前川喜平の「奇兵隊、前へ!」(その4)「地財ショック」は「だまし討ち」

 義務教育費国庫負担金を、三位一体改革の補助金削減の対象にするのは間違っている。
 義務教育費国庫負担金の削減を執拗に狙っているのは総務省(旧自治省)だ。香山総務事務次官は「何が何でも義務教育の国庫負担金の一般財源化を実現したい」と言明している(平成17年6月20日記者会見での発言)

 自治省は、英文名称を「Ministry of Home Affairs」と自称していた。「内務省」という意味である。彼らの中には、地方の自治は国の内政だという意識があるのではないだろうか。戦前、都道府県知事が内務官僚だったころの意識が未だに残っているように思える。自分たちは地方の保護者であり、監督者であるという意識である。
 地方6団体の事務総長・事務局長はすべて総務省(旧自治省)からの天下りである。知事会事務総長は歴代旧自治省次官級ポストを務めた人ばかりだ。6団体の事務局の幹部ポストには総務官僚が多数出向している。要するに、6団体の事務局は総務省そのものなのである。それぞれの事務局は本省の出先のようなものであり、本省の命令一下共同歩調をとるのだから、6団体の事務局同士は固く結束している。その事務局が会長とごく少数の幹部の了解を得るだけで、「団体の意見」になってしまうのだ。
 なるほど、知事会はオープンな議論を行って意思決定している。しかし、知事の中には旧自治省出身者がたくさんいるし、旧自治省出身でない知事の場合でも、腹心と頼む副知事や総務部長には総務省からの出向者が多い。平成16年11月現在、旧自治省出身の知事は15人、総務省から副知事への出向者は11人、総務部長への出向者は19人いる。知事がもともと強い持論を持っていない政策分野においては、腹心の部下に下から押され、知事会長に上から引っ張られれば、自ずと力の働く方へと知事は動くだろう。
 「地方6団体意見」というものは、本当は総務省が作り上げたものだと私は思う。地方交付税という巨大な財源と多数の優秀な官僚の出向によって、地方を保護し監督する総務省は、自ら「地方の声」を作り上げることもできるのである。
 平成15年1月17日、税制調査会において小泉総理がされた次の発言は、そのような総務省(旧自治省)の性格を端的に言い表しているのではないだろうか。
「私は総務省ももっと地方に自主権を与えるということに積極的になってもらう必要があると思います。現に総務省は前は自治省、その前は地方自治庁だったと聞いています。実際は中央集権省だ。何でもかんでも中央で決める」「交付税の問題。これは全国ある。もっと本当に地方の議会で権限を与えないと、自治なんか生まれませんよ。さっき言ったように、本当に自治省じゃない。中央集権省だ」

 「三位一体改革」の最終目標は、地方交付税の削減である。その前触れは、平成16年度予算ではっきりと表れた。突然2兆9千億円も削減されたのだ。全体として23兆9千億円から21兆1千億円へ12%の削減である。この削減は地方財政に対して大変な衝撃を与えた。世に言う「地財ショック」である。
 多くの自治体では歳入に不足をきたし、地方債の増発と財政調整基金の取り崩しによって穴を埋めなければならなくなった。地方団体関係者の中には「こんなことでは三位一体の改革は進められない」と言う人もいるが、「こんなこと」こそが三位一体の改革の正体なのである。「税源移譲」という「衣」の下の「交付税削減」という「鎧」が姿を現したのである。同じことは平成18年度以降に確実にまた起こるだろう。
 内閣府大臣官房審議官(前総務省自治財政局財政課長)の椎川忍氏は、この地方交付税削減について、論文の中でこう述べている(自治研究第81巻第4号平成17年4月)。
「交付税総額の抑制については、(中略)交付税による財源保障の水準を見直していく必要があることや地方財政が平成16年度末には204兆円を超える借入金残高(中略)を抱えることになるなど非常事態ともいえる状況にあり、三位一体の改革を進めていく中においても、地方歳出を抑制し財源不足を圧縮して財政健全化を進めていくことは避けられないとの判断から取り組まれたものである」
 彼の言い方は交付税削減は三位一体の改革のために必要だということだが、私に言わせてもらえるなら、交付税削減は三位一体の改革の真の目的なのである。言い方は違っても、地方交付税の削減が三位一体の改革の必然的に伴うものであるという認識は一致していると思う。
 椎川氏はさらに「大幅削減が急に決められたのでは、地方団体は対応のしようがなく予算編成が困難ではないか」という批判に対し、こう答えている(前掲論文)。
「平成15年6月に閣議決定した『骨太2003』において、地方財政計画の地方単独系統の経費(中略)を中心に歳出見直しの基本的な方向性が示されているが、この方針は平成14年11月の経済財政諮問会議の片山総務大臣提出資料において対外的に明らかにされていたものである。その後、改革の加速が行われるとともに(中略)建設地方債の増発が行われたことにより、一般財源の削減幅がより大きくなったが、基本的な歳出見直しの方向は相当以前から公にされていたといえよう」
 これでは、「前から言ってあったのに、ショックを受ける方がおかしい」と言わんばかりではないか。椎川氏は続けて「こういった政府の方針や経済・財政の状況が地方団体に十分伝達されていたかどうか、(中略)十分な意見交換なり意思疎通ができていたかという点が、反省材料として提起されることになった」と述べているが、真相はむしろ「知らせないようにしていた」のではないだろうか。
 平成16年度の交付税削減について、鳥取県の片山知事は、島根・鳥取両県知事会議後の共同記者会見(平成16年2月17日)で次のように語っている。
「政府は今回の交付税問題では、過去の約束を守っていないと思うのです。といいますのは、過去景気対策で公共事業の補正予算を組んで、それで地方団体がやる場合に、借金をして後で交付税で面倒見てあげますよということがあったわけです。それから、それとは別にも、単独事業をどんどんやりなさいと。やらないところは政府はしりをたたいたりしたわけです。それも借金でやっておきなさい、後で交付税で面倒見てあげますよということだったのです。
 今、両県(筆者注、鳥取県と島根県)ともその借金の返済のピークに差しかかっているわけです。ということは、過去の約束に基づいて交付税が増えなければいけない。ところが、逆にトータルを減らされているというこういう状態になっているわけです」
「理屈で言うと、多分政府の人は、過去約束したものはちゃんと算入していますよ、ほかの方が減ったのですよ、だから問題ないですよと言われるのでしょうけれども、そんなことを前提にして上乗せ措置があるからといって事業をやってきたわけではないのです。
 ですから、一種のだまし討ちに遭ったような感じなのです。
 例えて言えば、私はこういうことだと思うのです。例えば『残業をどんどんやりなさい、残業をやったら残業手当は満額出してあげます』と言って、一生懸命残業をして、いざ給料と残業手当をもらったのを見たら、残業する前よりも手取りが減っていた。『何で減っているのですか』と言ったら、『残業手当は満額出してあげたけれども、基本給の方を随分削らせてもらいました』と。これで納得するかどうかですよ。
 実は交付税は今そういう状態なのです。これは幾ら何でも理屈に合わないので、やはり政府は過去約束したことはちゃんと約束を守ってくださいと。
 (中略)残業手当をちゃんと払ってくれるということは、基本給をちゃんと払った上で残業手当を満額払ってくださいという、これがやっぱり大事なことだと思います」
 先の椎川氏の言い分では、地方の借入金残高が204兆円を超える非常事態なので、交付税を減らしたということになっている。しかし、それは地方のためではなく、総務省と財務省のための理屈に過ぎない。片山知事が言うように、地方にこんなに借金が溜まってしまった責任を果たすためには、地方交付税は増やさなければ筋が通らないはずだ。
 義務教育費の一般財源化(税源移譲)も、同様の「だまし討ち」に遭う危険性が極めて高い。片山知事の例えを使わせてもらえば、「お子さんのための扶養手当は廃止するけれども、全額を基本給に入れてあげるから大丈夫ですよ」と言われたが、給料をもらったら前より手取りが減っていた。「何で減っているのですか」と聞いたら「扶養手当分は全額入っているけれども、もともとの基本給を減らしたんです」と言う。そんなことになってしまうのだ。

 「改革」の中に潜む「まやかし」によって義務教育費が減らされることになるなら、それを指摘しなければならない。文部科学省の英文名称は「Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology」、略して「MEXT」という。そこには「Ministry of the NEXT」という意味が込められている。「the NEXT」つまり次代を担う子どもたちに責任を負う行政機関なのだ。(つづく)
前川喜平〔(まえかわ・きへい)文部科学省初等中等教育企画課長〕


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